転職とはめんどくさいものだ。覚悟の上であったが、いままで通用していた常識というは小さい虫かごの中だけのことだ。

組織という虫かごから、違う虫かごへ移動させられると、郷に入っては郷に従え状態だ。

転職をすると新しいことを覚えていかなければならない。

私が最初に教え込まれたのが、給油を制御するPOSと呼ばれるコンピューターの使い方である。

現在では、AIなどの人工知能が発達しているにも関わらず、ガソリンスタンドというのは非効率なソフトで制御をしている。

セルフスタンドのように簡単にならないのか?と問いかけたいが、まだFAXが主流な日本では無駄な話だろう。

では、やゆゆ君、俺のカードを使ってクレジットカードで給油をするお客さんの練習!あっでもあんまりカードリーダーにクレジットカードは通すなよ!

私はこの「何回も通すな」という言葉にピンときた。

それは後々、説明するとしようか。

手本で社長がクレジットカードでの給油の決済方法を見せてくれたが、簡単すぎる。

手順
  1. リーダーに通す。
  2. ICチップを読み込ませる
  3. 担当者をタッチ
  4. 確認ボタンをタッチ
  5. 給油機番号をタッチ

一回見ただけで、覚えたが、不真面目を演じる上では数百回はやりたいものだ。

私は、一度覚えた操作を何回も繰り返した、真面目時代に比べれば、これは体を動かす良いスポーツとも言える。

そうして、何十回と繰り返していると、操作画面に「このカードは利用できません」の文字列が並んだ。

カード会社が短期間で0円の取引を何度も繰り返しているためカードがロックされたのだろう。

社長!カードがロックされましたよ!!

社長が驚いた様子で駆け寄ってくる。

えぇ・・・何回カード通した?

社長が不機嫌そうな顔で小汚い天井を見つめている。

私も一様、社長が見上げている小汚い天井を見つめてみたが、相変わらず汚い。

20回くらいじゃないですかね

私は、社長から「あまりカードは通すな」としか言われていない。回数までの指示は無かったのだ。

そして、私は新人研修という意味で社長の指示に従い練習をしていただけである。

私に何の罪があるというのだろうか。

あまりカードは通すなって言ったよな!!あぁめんどくさい!カード会社に連絡してくる

私は薄々感じていた、この社長は自分のカードで研修させた意味が。

50代そこそこの年齢の男というはカードでステータスを示す風潮がある。

本来ならば、自分のカードで練習させるのが普通なのだが、この社長は自分のステータスを自慢したかったのだろう。

そのカードが「楽天ゴールドカード」なのだから。補足として言うがカード年会費は2200円である。

それから私は優雅にガソリンスタンドに置かれているベンチに座り、自販機で買ってきた午後の紅茶を嗜んでいた。

後ろの事務所でカード会社に事情を説明している声が聞こえてくるのが、なんとも滑稽である。

やっとカードが使えるようになったよ!!もう覚えたでしょ!!

本心としては、一回目で覚えたのだが、不真面目を演じる上ではまだまだ序の口である。

すいません、まだ操作が覚えられなくて…(笑)まだTカード併用の操作がまだなんですよ。

社長が落胆した顔でこちらを見てくる。

Tカード併用とは、クレジット機能付きカードだが、カードは使用せずに現金払いをする際にする操作である。

やゆゆ君は自分のカードは持ってないの?自分ので練習しろよ!

私は、普段の買い物でカードを持ち歩くことはしない。

現金とスマホのキャッシュレス決済で十分だからだ。

尚且つ、自分のカードが利用停止になれば非常に面倒くさいためカードは持っていないことにする

持ってませんよ!

社長も教育者という立場から渋々、カードを再び貸してくれたが、本番はここからだ。

Tカード併用なんて一度、見ただけで理解はできている。

カードを読み込んでからカード併用をタップしてTポイントカードをスキャンすれば良いだけの話だからだ。

私は再び、カード決済の練習をやり始めた。

あからさまに速く行うと、社長の事務所での監視の目があるから「あれれ?」とした演技をしてカードをスキャンする。

そうして、心配になった社長が事務所から出てきた矢先に「カード利用不可」の画面が現れた。

社長!カードがまた利用不可になりました!!!

私は調査という名目で、不真面目を演じているが、流石にこれは心が痛い

社長が渋々、こちらまで歩いてきて私に言った一言。

うん…今日は窓ふきの練習から始めるか

調査結果

今回は、敢えて一度で覚えた操作方法を何度も繰り返していた。

しかし、真面目にやって一回目でマスターしてしまったら、次にさせられる仕事は決まっている。

私は6年間、真面目時代にはしっかりと仕事をこなして工場長まで上り詰めたが、真面目であるほど、重圧が圧し掛かってくる。

しかし、どれだけ頑張っても給料は変わらず、上司の捨て駒として扱われるだけだ。

仕事ができない人間を演じてみて、率直な感想は「ストレスフリー」だということだ。

その瞬間は何か文句を言われるかもしれないが、そんなことはどうでもいい話である。

私がこの会社に入社したのは「褒められる」ということではなく「失態を繰り返す」ということなのだから。

この話は全て実話に基づいています。